「運送業界におけるESGの現状」とは? 浦嶋インタビュー
▼INDEX
・運送業界におけるESGの現状
・ESGに注力している企業が脱炭素を目指すためには数値管理が必須
・大手化粧品メーカーでは非常に緻密なCO2排出量が算出されている
・SDGsとESGの違い
・物流部門におけるCO2排出量はまだ可視化できていない現状
昨今、*ESGの中でも特に、脱炭素について関心が高まっています。そこで、運送業界のIoTを推進する株式会社ドコマップジャパン代表の浦嶋に、ESGの現状と展望についてインタビューいたしました。
*ESG:環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉。
企業が長期的に成長するためには、経営においてESGの3つの観点が必要だという考え方のこと。
■運送業界におけるESGの現状
運送業と一言で言っても、上場している企業は全体の1割程度で、ほとんどが中小零細です。数少ない大手企業が下請け業者を活用する際に、CO2の排出量を報告させるなどといった仕組みが生まれない限り、意識が変わることは難しいと思います。残念ながら、現状は中小零細にコストをかけてCO2の報告をさせるということが、まだまだ進んでいない状況です。このような状況なので、あえてコストを覚悟の上で、脱炭素に関わるルールをいち早く整備した会社が勝ち残る可能性もあると考えています。
■ESGに注力している企業が脱炭素を目指すためには数値管理が必須
グローバルに展開する企業においては、ESGを強く意識して事業展開されている企業が存在していることも事実です。ESGのうち、Eである「環境」の部門で企業が一番気にかけているのは「脱炭素」です。実際に、上場企業に勤めており、ESGに関する情報発信の業務に携わっている経営企画・IR・ESG推進室の方102名を対象に実施した調査(※1)でも、約8割の情報企業が「脱炭素」の取り組みを実施していることが判明しました。脱炭素という意味では、大量生産される商品を運ぶ作業が重要な意味を持っています。ESGを意識し、努力している企業の物流部門においては、何らかの課題が出ているはずです。ただし、担当者がその課題をしっかりと数値として把握し、管理することは難しく、「AAという商品をBBトン、CCキロ運んだ」というような、脱炭素の対策をする上では、かなりアバウトなデータになっていると推測しています。もしここで、「AAという商品をBBトン運んだら、CO2をこれだけ排出した」という月間レポートを自動で作成できたらどうでしょうか。弊社の事業として、このような仕組みが構築できたら、脱炭素を目指す企業にとって画期的かつ導入必須のツールになると確信しています。
<ESG推進企業の物流における「脱炭素」の実態調査|約8割が脱炭素の取り組みを実施>
運送業界でまず取り掛かれることとして、日野自動車と三菱ふそう自動車の車両に関しては、ダイレクトに燃料噴射量をデータとして取得することが可能です。例えば、午前9時から午後3時までの運行時に、CO2排出量がいくらなのかを算出することができます。この計算方法がシステムに登録できるようになれば、商品の運送にかかったCO2排出量のデータを蓄積、管理することが非常に簡単になります。
■大手化粧品メーカーでは非常に緻密なCO2排出量が算出されている
某企業では、一つの商品を製造する上で、CO2排出量がどれくらいなのか、詳細にデータを収集しているそうです。商品の容器が、紙なのか、プラスチックなのか、それともビニルなのかによっても、CO2の排出量は違ってくるそうです。商品ごとに、成分や容器に至るまで、事細かにCO2排出量を見える化するための努力がなされています。何でどれくらいのCO2が排出されているのかを計算できるのかということは、削減した実績にも直結し、最終的には株主に対するアピールにもなります。
ESG目標を達成するということは、燃料を消費した時に排出されるCO2量を管理すればいい、という単純なことではありません。製造工程で自然エネルギーを使っているか、火力発電を使っているかによっても排出量は異なりますし、全ての工程に紐づいているものです。そのため、企業がいかに真剣に取り組むかという決断がとても重要となりますし、ESG関連のサービス提供者としても、そういった気概のある企業の担当者と対等に関われるだけの知識や情報が必要だということでもあります。
<参考>
2022年10月06日日経BP「第3回ESGブランド調査」
トヨタ首位を堅持、パナソニックがV字回復
■SDGsとESGの違い
ここ数年で普及したSDGsとESGの違いとしては、SDGsよりもESGはビジネスにどのようなインパクトを与えているのかということが明確な点にあります。数値で評価がはっきりと現れれば、その情報を公開することで株価への良い影響も考えられるため、今後、上場企業においてコストをかけるのは、ESGの方だと予想しています。すなわち、企業がESGに配慮した経営をすることで、SDGs 達成に貢献できるという考え方になるということです。実際に、96.0%の上場企業が「ESG経営上、脱炭素への取り組みが重要」と回答しており、物流・運送に関わる「脱炭素」の情報発信や取り組みにおいても、64.8%が実施していることがわかっています。(※1)
<ESG推進企業の物流における「脱炭素」の実態調査|96.0%が、ESG経営上「脱炭素」への取り組みを重要視>
<ESG推進企業の物流における「脱炭素」の実態調査|6割強が、物流・運送に関わる「脱炭素」の取り組みを実施>
■物流部門におけるCO2排出量はまだ可視化できていない現状
ESGブランド指数トップ20に入った企業であっても、物流部門におけるCO2排出量の可視化ができていないケースが多いと思います。データの把握が製品の製造までにとどまるのではなく、製品材料の納品や商品配送が完了するまでのデータも収集できるようになれば、業界を大きく動かすきっかけになるのではないかと考えています。現時点で、データが取得できる対象車両は限定的ではありますが、だからこそ、「この顧客に対してはデータが取得できる車両を使おう」など、今度は運送業者側の努力が試されるといった業界内外でのシナジーが生まれていくと考えると、楽しみでなりません。人々の生活に密着しているショッピングセンターやカフェに至るまで、そこには必ず搬入している運送業者があるわけですから、まずは、導入第一号となる企業を見つけ、実績を積み、その他の企業にも流用するという流れを作れたらと思っています。
このような発想に至ったのも、日野自動車と三菱ふそう自動車と連携ができている我が社だからこそできることでもあります。ほとんどの運送業界は、燃費を計算するためにデジタル式運行記録計、通称デジタコを導入し、満タン法で計算しています。この方法は、「1ヶ月トータルでCC万キロ走った」という走行距離のデータをデジタコから取得し、「1ヶ月でBBリットルの燃料を消費した」というデータを手入力することで燃費を計算します。給油するタイミングと走行距離は一律ではありませんので、1ヶ月のトータルで計算する必要があります。この方法を応用して、燃費に加えてCO2排出量を計算できるとしても、9時から18時までなどという時間軸で、正確なCO2排出量を計算することは難しいでしょう。時間単位でCO2排出量を計算するシステムが開発できれば、運送業界だけでなく、様々な業界でパラダイムシフトが起こるきっかけになると感じています。正直、このようなシステム開発に取り組むのであれば、相当な覚悟が必要なことも承知しています。運送業者をターゲットとする戦略から抜け出し、これからはナショナルクラスの企業と関わり合う覚悟を持ち、開発に力を注ぎたいと思います。
※1
調査概要:ESG推進企業の物流における「脱炭素」の実態調査
調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット調査
調査期間:2023年3月29日〜同年3月30日
有効回答:上場企業に勤めており、ESGに関する情報発信の業務に携わっている経営企画・IR・ESG推進室の方102名